石井 潤一郎
8mm AWAY FROM KYOTO
K-NARF & SHOKO
石井 潤一郎
8mm AWAY FROM KYOTO
K-NARF & SHOKO
2023.2.10 Fri. — 2.19 Sun.
会期中無休
10:00 — 18:00
*金曜日のみ19:00まで
今回の展覧会テーマでもある8ミリフィルムの上映とアーティストトークを行います。
観覧は事前予約制となります。
・キュレーター(石井潤一郎)とアーティスト(K-NARF & SHOKO)によるトーク(約30分)
・8ミリフィルムの上映(約30分)
※終了いたしました。
石井潤一郎
目の前には一枚の「写真」がある。
運転手の後ろ姿、ゆるく左にカーブする車線、バス、時代を思わせる対向車。そこには少し日に焼けたような、ある過去の風景が焼き付けられている。ここは一体どこなのだろう。
1970年フランス、サンテティエンヌ生まれのK-NARF(ケナーフ)は、15歳の時に写真と出会った。暗室の中で自らの手でイメージを定着させる現象という作業は、すぐさま彼を魅了した。イメージは焼き付けられることで未来へと保管される。そこには、自身の手で何かを創り出すという喜びがあった。以来、カメラはいつも彼のそばにある。
しかしながらK-NARFは――自身でも標榜する通り――決して一般的な意味での「写真家」ではない。
彼はあくまでも写真を利用する「アーティスト」なのである。1996年、初めてデジタルカメラを手にしたK-NARFは、そのイメージの鮮やかさと機材の利便性の高さに衝撃を受けた。データを送信すれば、ボタンひとつで何度でも同じ画像が「出力」される。それまで暗室で一枚一枚、自らの手ですくい上げてきた「イメージ」は、今プリンター・トレイの上に複製されて積み上がる。
K-NARFの作品は、彼自身が「テープ・オ・グラフィー(TAPE-O-GRAPHY)」と名付けた、ネオ・アナログとも呼ぶべき独特のブリコラージュ技法によって制作される。デジタル出力された複製可能なイメージは、遊び心を加えた偶然性をその過程に取り込んだ、K-NARF独自の手法によって加工されている。
手をかけて、ひとつひとつ、この作業過程においてK-NARFの作品は、あらためて現在の現実の、その一回性の権威を再獲得するのである。
K-NARFの作品は2014年、日本人アーティストSHOKO(ショーコ)と出会い、アーティスト・デュオを組んだことによって次の段階へと進化した。「テープ・オ・グラフィー」により製作されていた作品群は、単体の美術作品の域を超えて「プロジェクト」として始動し始めたのである。
『8mm AWAY FROM KYOTO』と題された今回のプロジェクトは、2016年、K-NARF & SHOKOが京都の中古カメラ・ショップで、8ミリ・カメラのフィルムを偶然見つけたことに始まる。
二箱のダンボールの中に詰まっていたおよそ100本のフィルムには――週末や旅行中に撮られたのであろうか――60年代後半から70年代にかけて撮影された、複数の家族の記録が写っていた。
浮き輪につかまる幼い姉妹、遠い水平に霞む島、それらはまぎれもなく過去に存在していた、しかし名もなき日常の記録である。2020年、K-NARF & SHOKOは、この中古カメラ・ショップのダンボールの中で朽ちてゆこうとしていた、いつかの「ありふれた(オーディナリーな)」イメージを「テープ・オ・グラフィー」の作品へと変えてゆくプロジェクトを始めた。
今、目の前にはひとつの「作品」がある。
なだらかな丘陵地帯を走るバス。運転手の肩越しには、今ではもはや誰ともしれない、家族が眺めた旅の風景。それはおそらく、わたしたちが生きる現在(ここ)から8mmだけ遠く、そして、アーティスト・デュオK-NARF & SHOKOの手によって未来への生命を吹き込まれた、「エクストラ・オーディナリーな(日常を超えた)」美術作品なのである。
石井 潤一郎
1975年、福岡生まれ。美術作家。2004年よりアジアから中東、ヨーロッパの「アートの周縁 / インターローカルな場」を巡りながら20カ国以上で作品を制作・発表。国際展『ISTANBUL BIENNIAL : Nightcomers(トルコ ’07)』『4th / 5th TashkentAle(ウズベキスタン / ’08 / ’10)』『2nd Moscow Biennale(ロシア ’10)』『ARTISTERIUM IV / VI(グルジア / ’11 / ’13)』参加他、個展、グループ展多数。2020年よりICA京都で、AIRのネットワーク作りを行う一方、アーティストの展覧会作りにも関わっている。京都芸術大学(旧・京都造形芸術大学)大学院修士課程修了。京都精華大学非常勤講師。
K-NARF & SHOKO
ケナーフ&ショーコ
例えば子供が大人の職業の真似をして豊かな遊びを生み出すように、K-NARF & SHOKO(ケナーフ アンド ショーコ)は写真家を模して、あるいは写真と戯れることによって作品を制作するアーティスト・デュオである。2008年にK-NARFが確立し、自ら「テープ・オ・グラフィー(TAPE-O-GRAPHY)」と名付けた技法は、ホームセンターや文具店、金物屋などで手に入る日常的な道具や材料を用いて行われる、いわゆる「ブリコラージュ」と呼ばれる手法である。デジタル出力されたイメージに手作業の加工を加えて制作されるK-NARF & SHOKOの作品群は、現実と想像の垣根を曖昧にしながら、ありふれて平凡(オーディナリー)な過去を、現代的な作品へと昇華し、さらには未来へと残してゆく「エクストラ・オーディナリーな(日常を超えた)」試みなのである。