#008
Saskia Bos

サスキア・ボス

帝国の実験室

ARTIST
UPCOMING
ARTIST

Christiaan Bastiaans

2024.5.25 Sat. — 2024.6.8 Sat.
UPCOMING
Introduction

8回目となる今回のGinza Curator’s Roomでは、オランダからサスキア・ボス氏をお招きして、オランダ人アーティストのクリスティアン・バスティアンス氏の個展『帝国の実験室』を開催いたします。
本展では、アムステルダムの現代美術センター「デ・アペル」ディレクターや、ニューヨークのクーパー・ユニオン芸術学部長を歴任するなど、ヨーロッパとアメリカにおいて豊富な経験を持つサスキア・ボス氏がキュレーションを行います。人間の本質に迫るクリスティアン・バスティアンス氏の作品の中から、時事性に焦点を当てつつ、初公開となるショートフィルムの予告編を上映し、彼の制作を簡潔に概観できる近作を展示いたします。
自身のテーマを人間の条件の調査であると述べるクリスティアン・バスティアンス氏の世界をご覧ください。

Laboratories of Empire

film still 2024 © Christiaan Bastiaans

Outline
会期

2024.5.25 Sat. — 2024.6.8 Sat.

日曜休廊

開廊時間

10:00 — 18:00

お問い合わせ

思文閣銀座

TEL: 03-3289-0001

MAIL: tokyo@shibunkaku.co.jp

助成

オランダ王国大使館

Curator's Statement

サスキア・ボス

思文閣銀座で開催される「Ginza Curator’s Room」で紹介する今回のアーティストであり映像作家であるクリスティアン・バスティアンスは、日本文化と深い関わりを持っています。彼は若い頃に京都市立芸術大学に在籍し、武道、すなわち空手と太気拳の稽古に励んでいたため、それらの内面の強さを養うために機能する武道のエネルギーを、2つの流れ、あるいは「川」1)として組み合わせていました。彼のアジアや日本に対する憧憬には、いくつかの源流があります。まずは、混血である(オランダ、フランス、インドネシア・ジャワの血を引く父と、インドネシア・スマトラ、アルメニアの血を引く母、二人はインドネシアで出会った)という彼の家系から、そして後には彼自身の芸術とテクノロジーへの興味によって。

演劇、銅版画、フォト・リソグラフィ、映画、文学は、彼の初期の芸術制作の重要な源です。シェイクスピアの『リア王』(ここから彼は『リアル・リア』と題した演劇/ライブ・パフォーマンスを展開した)から、三島由紀夫や安部公房、映画監督の今村昌平、ミケランジェロ・アントニオーニ、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーに至るまで。シュルレアリスム(画家のジョアン・ミロ、映画監督のルイス・ブニュエル)や、アムステルダムのミクリ劇場で観た寺山修司主催の劇団「天井桟敷」との出会いも重要で、彼らの作品に「共存する複数の視点」に惹かれたと述べています。

そうした数年の内に、学究的な環境よりも遥かに彼の基礎形成に貢献したアーティスト井田照一との親交もありました。大阪に住みながら、日本においてアトリエとその主がどのように機能するのかを理解すべく、足繁く京都の井田を訪ねました。しかしまた彼は、フランシス・ベーコンやピカソ(特にゲルニカ)のような印象的な作品を残した、まったくタイプの異なるアーティストも敬愛していました。

彼の作品が本格的に発展する頃には、戦争における犠牲者(たとえば子どもや兵士)や社会における犠牲者(精神科の患者やハンセン病コロニーに住む人々)の姿に特に惹かれているようであり、自作の絵画や映画の中に繰り返し登場する人物に「傷ついたモデル」という名前をつけています。バスティアンスは「傷ついたモデルは、脆弱性と回復力の原型である」と述べています。

映画『クラブ・ママ・ゲミュトリッヒ』、『ヴァリュアブル・カーゴ(貴重な貨物)』、および『ゴッズ・ナレターズ(神々の語り手)』では、ジャンヌ・モロー、リヴ・ウルマン、ハンナ・シグラなどの有名女優や、日本人俳優の笈田ヨシ、舞踏家の大野慶人などが出演しています。

本展で初公開される映画『帝国の実験室(Laboratories of Empire)』予告編では、俳優のベルト・ルぺス、ヘレヌ・ヴライダグ、チャーリー・チャン・ダグレットが、「別の現実」における「異世界」の天体を示唆しながら、戦場や、負傷者に安らぎを与えるようなシェルターといった、隔離の領域に向かうバスティアンスの調査を継続する役割を演じています。

Ginza Curator’s Roomでの展覧会のために、私はキュレーターとして作家と協力し、ドローイング、コラージュ、フィルム・インスタレーションの中から、作品の時事性に焦点を当てつつ、彼の制作を簡潔に概観できる作品を選びました。戦争や紛争はバスティアンスにとって継続的な懸念事項であるだけではなく、地理的に、またしばしば政治的にも広がった、苦悩がますます大きな役割を果たす芸術と文化の世界とも相互に結びついているのです。

シモーヌ・ヴェイユは、ホメロスの傑作のひとつである『イーリアス』を賞賛し、こう述べています:「運命から庇護されて存在するものなどなにひとつないこと、力をけっして讃美しないこと、敵を憎まず不幸な人びとを軽蔑しないことを学ぶとき、おそらくは、これらの民族も叙事詩の精髄を再発見するであろう」。2)

自身の大航海において、しばしば調査記者のような活動を展開するバスティアンスは、世界の各地で苦しむ避難民、外傷を負った人々、貧しい人々との出会いの中で「恐怖に直面する人々の回復力」に感銘を受けると言います。「それは『人生』の『本質』を見つける旅を助ける」と語るのです。

 

サスキア・ボス、アムステルダム、2024年2月

 

 

クリスティアン・バスティアンスによる引用文は、特に断りのない限り、2023年12月に行われた未発表のインタビューによるものである。

注1:キュレーター、マリアンヌ・ブラウワーとの対談における作家の引用。Christiaan Bastiaans, Club Solo, Breda, Netherlands, 2023を参照。

注2:シモーヌ・ヴェイユ「『イリアス』あるいは力の詩篇」富原眞弓訳『ギリシアの泉』1988、みずず書房、p.58

Curator

Saskia Bos

サスキア・ボス

サスキア・ボスはオランダ、アムステルダム在住の現代美術のインディペンデント・キュレーターであり批評家である。

近年(2016-2022年)は、国際的な美術館専門家の組織である国際美術館会議(CIMAM)の理事会に所属、設立60周年を記念して『ミュージアム・フロム・ザ・インサイド』(2022年)を企画・編集した。現在は、ICA京都、SEC(Société Européenne de Culture)アムステルダム、アートセンター、ウェスト・デン・ハーグの理事会に所属している。

現代美術に関する執筆活動を行い、複数の大学で教鞭をとっている。アムステルダム大学で美術史の修士号を取得し、ステファン・マラルメがマルセル・ブロータスの作品に与えた影響についての研究を行った。アムステルダムの現代美術センター「デ・アペル」のディレクターを20年以上務め、キュラトリアル・プログラムの創設ディレクターでもある。彼女はヨーロッパと米国で展示企画、教育、芸術管理の長い経験を持っており、2005年から2016年まではニューヨークのクーパーユニオン大学で芸術学部長を務めた。

2009年にはヴェネツィア・ビエンナーレのオランダ館をキュレーションした。 その他のプロジェクトには、第3回ミュンスターランド彫刻ビエンナーレ(2003年)、第2回ベルリンビエンナーレ(2001年)、サンパウロ・ビエンナーレ(オランダ・コミッショナー/1998年)、ヴェネツィア・ビエンナーレ(「アペルト」共同キュレーター/1988年)、 Sonsbeek’86(アーネム、 オランダ)などがある。

初期の国際プロジェクトのひとつは、 カッセルで開催されたドクメンタ7のカタログ編集とキュレーター・チームのアシスタントである。

Artist

Christiaan Bastiaans

クリスティアン・バスティアンス

アムステルダム生まれ、オランダ在住。アムステルダムのヘリット・リートフェルト・アカデミーで絵画とリベラル・グラフィックを、ニューヨークのプラット・グラフィック・センターと京都市立芸術大学でエッチングを学ぶ。アムステルダムのリートフェルト・アカデミーを卒業後、1976年から1978年まで日本で生活する。

クリスティアン・バスティアンスのプロジェクトは、入り組んだ多層構造のインスタレーションを通して社会構造を露わにする。彼の主題は政治や社会の現実から派生している。バスティアンスは、自身のテーマを人間の条件の調査であると説明する。

人間の存在の本質を理解するために彼は生と死、美と恐怖を中心に据えた状況、人間が最も基本的な生存戦略に頼らざるを得ない場所や紛争地域、難民キャンプや、元ハンセン病患者のコロニー、あるいは恐怖が支配する戦地に足を運ぶ。そこで彼は、子ども兵士、難民、精神科患者、臓器売買の犠牲者、高齢者、性転換者と出会う。こうした出会いが、彼の芸術活動の原動力となっている。彼は自身のものではない世界に美と人間性を求めるのである。彼の作品では、それが生み出す超越的な体験を伝え、アートという文脈の中で荷電したテーマを形にしようと試みている。