#003
Martin Germann

マーティン・ゲルマン

Beyond Fish

ARTIST
ARTIST

Kasper Bosmans

2023.4.8 Sat. — 2023.4.22 Sat.
#003
Martin Germann

マーティン・ゲルマン

Beyond Fish

ARTIST
ARTIST

Kasper Bosmans

2023.4.8 Sat. — 2023.4.22 Sat.
12

Legend: Beyond Fish

Kasper Bosmans

鯉之図
伝范安仁筆

Outline
会期

2023.4.08 Sat. — 4.22 Sat.

日曜休廊

開館時間

10:00 — 18:00

お問い合わせ

思文閣銀座

TEL: 03-3289-0001

MAIL: tokyo@shibunkaku.co.jp

Curator’s Statement

マーティン・ゲルマン

Ginza Curator’s Room #003では、キュレーターのマーティン・ゲルマンが、ベルギーのカスパー・ボスマンス(1990年、ベルギー・ロンメル生まれ)を招き、日本で初めて彼の作品を紹介する。ボスマンスは、地域の神話や伝統、風土を反映させた独自の芸術的アプローチで広く知られている作家である。彼の作品は当初から「ファイン・アーツ(純粋芸術)」という学問分野を構成する文脈を探求しており、それは(西洋では)しばしば「ファイン・アーツ(純粋芸術)」に従属するものであると考えられてきた「応用芸術」にも言及するものである。しかしまさに、(「応用芸術」の)職人技術と伝統こそが、「ファイン・アーツ(純粋芸術)」を発展させてきた基盤なのである。

したがってボスマンスの作品は、忘れられた物語や御伽噺、土着の神話を掘り起こすことで、既存の美術史観の持つある種の奇妙さを炙り出そうする考古学者の仕事と比較することができる。

またこれは、人類学、歴史学、政治学といったあらゆる文脈において、アートの役割が模索されている今日という時代――緊急の気候危機に対する目覚めの中で、自然科学や忘れ去られた先住民の知識が、現代美術を、修正や新たなつながりの、そして未来への物語の道具として扱うための材料を提供している時代――に呼応しているのである。

ボスマンスは、彫刻、ドローイング、インスタレーション、絵画を主な制作手法としながら、彼の作品は「展覧会」という形式そのものとも戯れるのである。Ginza Curator’s Room #003の枠組みにおいてもボスマンスは「展示即売会」という儀礼的な体裁を出発点として、今回は中国と日本の美術史における紛れもない交差点、数えきれないほどの神話や物語にもつながる意志と活力の象徴――「鯉」の表現に焦点を当てている。この『Beyond Fish』展は、思文閣銀座の空間で開催される生き物をテーマとする即売会のかたちをとり、現場で初めて完成する移動展示であると理解することができるのである。

ボスマンスにとってアートとは、彼自身が語る通り「学習のツール」である。彼は、人々がノートを使うような感覚で絵画を使用する。特に、彼が2013年から制作を続けている小型で持ち運びやすい木製パネルのペイント・シリーズ《レジェンド》においては、その傾向が顕著である。これらは作品に添えられる説明文の代わりとして、意図的に制作されたものであった。《レジェンド》は今日まで、ボスマンスが当時使用していたスキャナーの大きさで描かれている。これは、デジタル時代の多くのフォーマットやアルゴリズムに思いを馳せることを可能にしている。古来の紋章から現代の技術的な手話まで、膨大な視覚的コードを組み合わせた《レジェンド》は、ボスマンスの実践を通じて紡ぎだされる楽しげな線描であると言える。一方では物質的で手触りがよく、他方ではアマチュア的で作家性がないようにさえ見えるこれらの作品は、作家が関心を持つあらゆる研究分野を捉え、位置付け、事実(と虚構)と、西洋美術史のルールに関する視覚的情報を結びつけているのである。

ボスマンスの《レジェンド》シリーズの新作は、魚の絵が伴う諸条件など、実用的な問題にも踏み込んでいる。鮮度保持の問題から、絵画において淡水魚と海水魚の描かれ方は異なっている。海水魚は保存のために苔に包まれ作家の元へ届く(描かれたのちに、食された)のに対して、淡水に住む魚の品質保持期間は短い。そのような違いが、競技的な静物画や台所の静物画といったジャンルにまで発展したのである。ボスマンスの絵画はそれらの情報と13世紀の中国の画家、范安仁の作とされる《鯉之図》の、思文閣が説明するところの特殊性とを組み合わせている。基本的にボスマンスが継続しているシリーズの新作は、それぞれの伝統というものが、実現の可能性という非常に単純なルールに則っているということへの肯定なのである。

また、日本で調達した材料で完成させた、ガラス・オブジェのセットも展示される。これらの作品はボスマンスが生まれ育った地域、ケンペンと呼ばれるベルギーとオランダの国境に位置する砂丘地帯に直接つながっている。

古くからここは違法行為や秘密活動が盛んで、密輸業者が好む場所として知られている。特に20世紀に入ってからは急激に郊外化が進み、野生動物は移動するための道を探さなければならなくなった。そこで彼らは野生動物の自由な移動を促す、ほとんど目に見えない生態系のインフラ「オオカミの回廊」と呼ばれるものを利用する。ガラスの彫刻は回廊と、それを利用する動物たちを表している。この点で回廊は、既存の歴史を再考し社会変革を可能にする新しい方法を、シリーズごとに模索しているカスパー・ボスマンスの実践のメタファーと見ることもできるのである。

Curator

Martin Germann

マーティン・ゲルマン

ケルン/ドイツを拠点に活動。2021年、森美術館のアジャンクト・キュレーターに就任。直近では「MAMスクリーン017:ナンシー・ホルト、ロバート・スミッソン」(2022年)を企画。また、「STILL ALIVE」と題した国際芸術祭「あいち2022」では、キュレトリアル・アドバイザーを務める。その他キュレーションを手がけた展覧会は、オリバー・ラリック「Exoskeleton (OCAT Shanghai / 2022)」、トーマス・ルフ「after.images(NTMoFA台中、台湾 /Century Gothic)」、「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人(森美術館、片岡真実との共同企画 / 2021)」など。 2012年から2019年にかけて、S.M.A.K.(ベルギー、ゲント)の芸術部門を率い、コレクションやテーマ別のプレゼンテーション、ラウル・デ・ケイザー、ジャン・ペイリー、ヒワ・K、ゲルハルト・リヒター、マイマーティン・ゲルマンケル・E・スミス、ジェームズ・ウェリング、ナイリー・バグラミアン、リー・キット、カスパー・ボスマンス、マイケル・ビュート、ジョーダン・ウルフソン、レイチェル・ハリソンを含む個展企画などを担当。

さらにこれまで、ケストナー・ゲゼルシャフト(ハノーヴァー)のキュレーター(2008-2012)、第4回ベルリン・ビエンナーレ(2005-2006)にて「ガゴシアン・ギャラリー・ベルリン」のプログラム・ディレクションを担当。多数の展覧会カタログやモノグラフを出版し、彼の記事は「032c」、「Frieze」、「Mousse」などの雑誌に掲載されている。2016年には「リリ・デュジュリーのために:Folds in Time」で、ベルギーの最も優れた展覧会に贈られるAICA賞を受賞。

Photography: Diana Tamane

Artist

Kasper Bosmans

カスパー・ボスマンス

1990年 ベルギー生まれ。歴史的な研究に根ざしたカスパー・ボスマンスは、ミクロとマクロの両方の領域で文化的な意味を生み出すサインの交差を解き明かす。彼の学際的な作品には、様々な政治的、芸術的、生態学的、社会的秩序からオブジェクトやシンボルを解析し再構築する、制度的な介入、インスタレーション、彫刻、そして絵画などがある。ボスマンスは、政治体制、フォーク・アート、テクノロジーの領域から取り出した多様な文化的遺物を調査し、概念と物質の間の空間に留まる権力と知識の歴史を読み取る新しい方法を確立しようとしている。

Photography: Karolina Sobel

7 WORKS
CLOSE